さて、生命が発生した当初、つまり、単なる物質から生命と呼べる存在になったころ、たとえば、その生命体は深海の生命フロンティアで合成された高分子の有機化合物だった、とします。
その存在は、独立栄養生物であったか、従属栄養生物であったか、というと、従属栄養生物であったであろう、と考えられています。

最古の生命体に最も近いと考えられているのが深海の生命体だと前述しました。

生まれたばかりの生命は、それが果たしてLUCAだったかは解りませんが、ある条件が揃うと分裂する、という特性を持ちました。そのきっかけが熱によるものなのか、あるいは、化学反応なのかはわかりませんが、「代謝」の起源となるような現象が起きたのでしょう。こうして生命体は生まれました。
この生命体がもつ代謝系に合致する成分が偶然キャッチされると、それによって化学変化が起き、自己複製が出来たのでしょう。有機化合物のスープであった、と例えられるほど、太古の海は様々な有機化合物が溶け込んでいた、と考えられています。あるいは、熱水に含まれる硫化水素やメタンを使ったかもしれません。
しかし、その反応も、今の生命体に見られるような迅速なものではなく、随分とのんびりしたものだったと考えられています。推定では、誕生したばかりの生命体が、細胞分裂するには数万年を要していた、と考えられています。

「生きる」は、当初、それほどまでに、実に気長で偶発的な現象だったのかもしれません。
その後、さらに何万年も何億年もかけて、すこしずつ変化しながら、また別の種類の細胞も生まれたことでしょう。
そのなかに、深海の熱水にふくまれる硫化水素やメタンを取り込んで、それを自分のもつ代謝系に利用し、二酸化炭素から有機物を合成するものが生まれました。このような生物は、自分で炭素を獲得できますから、出来上がった有機物を待つよりはずっと生きるのに有利だと言えます。しかし、従来どおりの従属栄養生物も、この独立栄養生物によって生成された有機物を利用できますから、この生物の側にいればぐっと生きるのに便利になります。
最古の生命体に近いと考えられる深海の古細菌も、硫化水素を利用するしくみをもっているものがいます。この古細菌は無機物の炭素を有機物に変えますから、独立栄養生物です。また、硫化水素やメタンによる化学反応ででたエネルギーを使っていますから、化学合成独立栄養生物である、と言えます。
この有機物を作れる生物を起点として、その有機物を食べたり、あるいは共生させていきる生物の世界が構築されています。太古の海でも、このような関係が構築されていたと考えられています。

やがて、深海を脱し、太陽光を利用して二酸化炭素から有機物を合成できる光合成能を獲得した生物が表れます。これによって、大量に放出された酸素分子は地球環境をかえていきます。しかし、酸素を利用できる生物の登場で、いよいよ生物は生存エリアを拡大させ、食べたり食べられたりの関係もより複雑化していったことでしょう。
実は、原核細胞が真核化したのも、この食べたり、食べられたりしあったことによって起きた、とする説もあります。

細胞たちは、生きるための炭素獲得のため、あるいは勢力拡大のため、相手を取り込んでいきました。取り込まれて、その細胞の栄養となっていく一方で、取り込まれても、その細胞のなかに生きづくものもいました。これを「食作用」といいます、食べたつもりが、食べられたものに乗っ取られたものもあったかもしれません。あるいは、食べられたものが、機能を分担して、いすわったものもあるかもしれません。こうして「食べる」ことが細胞の進化に繋がった、と考えられているのです。

さらに時が進んで、多細胞生物になると、いよいよ生物はエネルギーが必要になり、「食べる」もダイナミックになっていきます。しかし、すでに光合成を獲得していた生物界は、豊富に有機物を合成してくれる光合成植物の有機物を栄養として、動くことにより多くのエネルギーを必要とする動物が追随するという、植物と動物の関係が出来ていました。
エディアカラに見られるように、約5億年前になると、実に多様な生物群が見受けられます。それは動物どうしでも熾烈な食べると食べられるが行われていたことが解ります。

こうした海から陸へと脱出する動物もすこしずつ表れます。陸上にはすでに植物と菌類の合体した地位類が約7億年前に生きていました。それを追うように動物も陸上生活できるように進化していきます。


地球のほぼ全土に生物が行き渡ったのは、「食べる」という関係があったからに他成りません。

参考

新・細胞の起原と進化 中村運 P.16、17
「始原細胞は生命としての“ごく基本的なしくみ”は含まれていたのですが、それはまだ原始的で代謝能率の低いものでした。たとえば、現生で最下等といわれている細菌細胞は、十分な栄養の下で二分列するのに20〜30分を要します。これに対し、推定されている始原細胞はその細胞分裂に数万年を要していたでしょう。それほどに始原細胞は代謝能率が悪く、その分裂は遅々としたものだった、と考えられています。」

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